取り組んできた作品

2009年 辛夷祭 サマーコンサート

G.Verdi 「ナブッコ」序曲

 オペラ「ナブッコ」は、ヴェルディの3作目のオペラだが、初めて大成功を得た出世作品として知られている。「ナブッコ」序曲は、このオペラの中から幾つかのテーマを要約したものである(但し、冒頭のトロンボーンとチューバによるコラールとそれに続く中低弦による部分は序曲用に作られたもの)。また、序曲で使われているテーマの順序は劇中での順序とは一致していないため、序曲から劇の流れをつかむのは無理であろう。
 「ナブッコ」は、旧約聖書中の人物伝がもととなっている。「ナブッ コ」とはすなわちネブカドネザル2世のことで、紀元前のバビロニアとエルサレムが舞台となっている。物語は主にバビロン捕囚の話である。
 序曲は、トロンボーンとチューバの後に続く華やかな合奏で始まる。その後雰囲気が一転し、緊張感のある主題がstaccato e sotto voceで歌われる。それが最高潮に達し、静まった後再び冒頭のコラールが現れ、3/8拍子の甘美な旋律が歌われる。これは「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」という有名なメロディーで、劇中ではバビロニアにつれて来られたヘブライ人が祖国を想って川岸で歌うという場面で使われている。イタリアでは国歌並みに有名であるとも言われている。
 そして再び緊張感のある主題が登場し、華やかなニ長調へと発展する。途中少しおどけた部分もはさむが、衰退することなく輝かしいまま曲を終わる。

A.Dvorak「交響曲第5番 ヘ長調」

 1875年に完成したこの交響曲は、ドヴォルザークの《田園》交響曲とも呼ばれている。彼は早くからリストやワーグナーの管弦楽作品に魅せられ、それを自己のオーケストラの書法にも投影してきたが、この5番はそれと比べてボヘミアの民族的な色合いが濃く、ドヴォルザークの個性が表れてきた作品だと言える。また、第5番はドヴォルザークの作品の中では有名な方ではないが、作曲者自身は好んで自分の指揮するコンサートのプログラムに加えていたと言われている。

第1楽章 Allegro ma non troppo
 ヘ長調、2/4拍子。ソナタ形式に近く、明るい牧歌的性格を表している。この楽章には第一主題が2つある。冒頭のクラリネットによるのどかな第一主題aと、Grandiosoで演奏される華やかな第一主題bである。中間部では、ヴァイオリンで提示される甘美なメロディーが転調を繰り返して歌われる。再びヘ長調に戻り第一主題、第二主題ともに歌われるも、どちらも最初とは少し異なっている。そしてコーダでは第一主題aが主に歌われているが、その背景で第二主題が見え隠れしている。最後にホルンが第一主題aを演奏し、静かに曲を終わる。

第2楽章 Andante con moto
 イ短調、3/8拍子。第1楽章とは対照的に物悲しさを含んだ曲となっている。3部形式。冒頭のチェロによるイ短調の主題が中心主題となっている。この主題がヴァイオリンやフルート、ファゴットに受け継がれた後に、中間部に入る。中間部はイ長調で、少しばかり明るさをほのめかしている。この両端のイ短調と、中間部の明るく陽気なイ長調との性格的な対比は、ドヴォルザークが後に好んで用いたボヘミアの民族音楽“ドゥムカ”を予知させるものとも見られている。

第3楽章 Allegro scherzando
 変ロ長調、3/8拍子。冒頭に2楽章のメロディーにもとづいた序奏(Andante con moto,quasi l'istesso Tempo)がおかれている。また、作曲者自身は第2楽章の終わりに“きわめて短い休止をおいて、すぐに続けて演奏するように”と指示している。この序奏の後に軽快なスケルツォが始まる。スケルツォは小さなソナタ形式の様になっていて、トリオ部分は変ニ長調。管と弦の掛け合いや付点のリズムが特徴的である。また、この楽章にだけトライアングルが入っている。

第4楽章 Allegro molto
 ソナタ形式。曲の調性はヘ長調であるが、冒頭のイ短調の序奏の様に短調で書かれているところも多く、甚だしいコントラストが感じられる。そして第二主題がクラリネットの変ニ長調で提示される。しばらくして不安げな雰囲気を漂わせた後、第二主題から派生したホルンの旋律に導かれ激しいヘ短調の部分に入り、そこからハ短調の展開部に入る。
そして転調を繰り返し長調になって少し静まった後、再び不安げな雰囲気を漂わせ、同じことを、今度はト短調の激しい部分の後ニ短調の展開部という形で繰り返される。転調後、最終的にイ短調になる。そこから序奏がヴァイオリンや一部の管楽器により再び現れる形となり、第一主題が引き出される。そして第二主題が現れ、その後の不安げな雰囲気が激しい短調を予想させるも静かな長調の和音に消されてしまう。ここでかすかに第1楽章の回想が入るも、すぐに第一主題のリズムによるコーダが始まる。そのクライマックスでは第4楽章の第一主題と、第1楽章の第一主題aがぶつかり合い、その後華やかに曲を閉じる。

文:石神 一貴(55期指揮者)